軍事思想史入門 第11回【新たな軍事思想・地政学】

【新たな軍事思想・地政学

 この時期は従来では見られなかった新たな軍事思想の誕生期でもあった。

 ドイツのデルブリュック『政治史の枠組における戦争術の歴史』で、歴史学の方法論を活用しつつ、従来の戦史だけではなく社会史や政治史などと組み合わせることで軍事史の発展に貢献した。また、「殲滅戦略」と「消耗戦略」という概念を提唱し、戦略思想に影響を与えたことでも名高い。

 イギリスのランチェスター『戦いにおける航空機』の中で戦争に数理モデルを活用し、「ランチェスターの法則」を生み出したオペレーションズ・リサーチ研究の創始者として名高い。このオペレーションズ・リサーチ研究は第二次世界大戦でも盛んに活用され、数学や統計学を戦争に大いに活用する流れを生み出した。また、現在では軍事だけではなくビジネスなどにも応用されていることはよく知られている。

  地政学という学問の登場もこの時代の軍事思想において欠かすことが出来ない要素である。地政学にはそれぞれ英米系とドイツ系の二つの系統があり、それぞれ独自の発達を見せてきた。

 英米地政学を代表するのはイギリスのマッキンダーであり、彼の著書である『デモクラシーの理想と現実』では、マハンのシーパワーに対する「ランドパワー」、そして「世界島」や「ハートランド」などの概念を取り上げつつ、ハードランドの要点となる東欧の重要性を主張し、イギリスの外交政策に影響を与えることになった。

 また、アメリカのスパイクマン『世界政治におけるアメリカの戦略』で、シーパワーとランドパワーが衝突するユーラシア沿岸部の「リムランド」こそ地政学的に重要だと主張し、アメリカの外交政策に影響を与えることになった。

 一方、ドイツ系地政学の先鞭となったのはドイツのラッツェルによる『政治地理学』であり、またラッツェルの教え子であったスウェーデンチューレン『生命体としての国家』がそれに続く。ラッツェルは「生存圏(レーベンスラウム)」という概念を編み出したもののあくまで「政治地理学」を標榜したが、チューレンは「地政学」という言葉を生み出し、また自給自足的な「アウタルキー(閉鎖経済)」についての主張を行った。

 この流れをさらに発展させたのはドイツのハウスホーファーであり、『国防地政学などのような著作の中で、当時のドイツの状況を地政学的に分析し、マッキンダー、ラッツェル、チューレンらの分析を活用しながら、大陸国家としてのドイツの生存権についての意見を述べていった。ハウスホーファーヒトラーとの出会いを通じ、ナチスの政策にも影響を与えたが、次第にそれはハウスホーファーの考えから乖離した「東方生存圏」思想となっていった。しかしながら、このナチスとの接近によりドイツ系地政学は危険視されることになり、ハウスホーファーの思想も批判的に論じられることが多い。

 

デルブリュック『政治史の枠組における戦争術の歴史』

ランチェスター『戦いにおける航空機』

マッキンダー『デモクラシーの理想と現実』

スパイクマン『世界政治におけるアメリカの戦略』

ラッツェル『政治地理学』

チューレン『生命体としての国家』

ハウスホーファー『国防地政学

 

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