軍事思想史入門 第5回【フランス革命後】

フランス革命後】

 フランス革命は世界史上で多大な影響を与えると共に、軍事においてもまた非常に大きな影響を与えたのは言うまでもない。軍事思想上で重要な著作はこのフランス革命以降の時期に執筆された物が多い

 まず、軍事思想上の地均しとなったのは、プロイセンビューローによる『新戦争大系の精神』である。ビューローは「戦術」と「戦略」の定義を明確にし、この二つを対照的なものとして扱ったことに意義があるとされる。ビューローは軍事専門用語の定義づけを明瞭にし、また戦略の持つ重要性を盛んに説いた。その一方で、ビューローは幾何学的な「作戦角」という概念を提唱し、数学のように合理的に戦争を遂行することを主張したが、これは机上の空論に近いもので多くの批判にさらされることになった。

 さて、この時代における軍事上の一大人物と言えばフランスのナポレオンで間違いないだろう。ナポレオン自身は軍事的な著作を残さず、彼の言葉をまとめた『言行録』などが残されているだけだが、ナポレオンの統帥術や用兵術はある種の理想化を受け、彼の行った戦争は大いに研究の対象となった。

 ナポレオン戦争終結後、軍事思想上で大きな影響を及ぼした人物と言えばジョミニ、そして何よりクラウゼヴィッツの名を挙げなければならない。

 スイスのジョミニ『戦争概論』の中で、それに従えばほとんどの場合で勝利を手に入れることが出来る若干の基本原則があるという「戦いの原則」を主張し、ナポレオンもまたこの戦いの原則の優れた理解者であり応用者であると考えた。このジョミニの戦いの原則は当時の軍事学界に大きな衝撃を与え、後の軍事思想の発展にも大きな影響を与えた。ジョミニ的な用兵術はしばらくの間は全面的に、現在に至っても部分的に参考にされている。

 さて、軍事思想上で最も重要な人物と著作を挙げるとすれば、プロイセンクラウゼヴィッツとその著作戦争論であることは間違いないだろう。先のジョミニの『戦争概論』の内容が実践的であったのに対し、クラウゼヴィッツの『戦争論』は哲学的と称されており、従来の軍事思想は「戦争にどのようにして勝利するか」という方法論に重点が置かれていたのに対し、クラウゼヴィッツは「戦争とは何か」という観点に立っており、「戦争は政治の継続(延長)」とする彼の主張は軍事学を学ぶ者にとって馴染み深いものとなっている。この示唆に富んだ軍事思想の大著は未完成の不完全なものであったが、それでもなお今日の研究者にとっても刮目に値する傑作だとされている。

 

ビューロー『新戦争大系の精神』

ナポレオン『言行録』

ジョミニ『戦争概論』

クラウゼヴィッツ戦争論

 

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