軍事思想史入門 第9回【第一次世界大戦後】

第一次世界大戦後】

 第一次世界大戦はそれまでに類を見ない大戦争であり、軍事のみならず政治、経済、文化に多大な影響を及ぼし、多くの技術や学問が戦争に用いられた革新的な戦争でもあった。それゆえに、第一次世界大戦は軍事思想の面でも大きな刺激を与えたのは言うまでもない。

 第一次世界大戦中に事実上の戦争指導の実権を握っていたドイツのルーデンドルフは、その著書『総力戦』の中で戦争の性質が全面的に変化を遂げたことを述べ、クラウゼヴィッツを批判しながら総力戦では政治は戦争に奉仕しなければならないことを説いた。また、総力戦では軍事だけではなく経済戦や思想戦を含めた総合戦となり、前線と銃後の区別は失われ民間人もまた犠牲になること、国民全体の存亡が賭けられたことから戦争への全面的な協力と、敵国や敵国民に対する激しい憎悪や無条件降伏の要求へとつながることを示唆した。

 また、第一次世界大戦は前途有望な多くの青年の命を奪ったことから、戦勝国であってもなお大量殺戮のもたらした衝撃は大きく、軍事思想上にも大きな影響を与えた。そのようなことから、将来戦ではかつてのような大規模軍の形成と人命軽視的な戦術を改めなければならないという考えは強かった。

 イギリスのリデル・ハート『戦略論:間接的アプローチ』の中で、第一次世界大戦では戦場での敵戦力の殲滅を指向して敵の抵抗が強固なところに戦力を差し向けた直接的アプローチを取っていたが、これからは小規模な職業軍によって敵の抵抗の薄い弱点部にこちらの戦力を集中させ、特に敵に心理的ダメージを与えることを目標とする間接的アプローチの重要性を説いた。

 また、イタリアのドゥーエ『制空』の中で空軍による戦略爆撃の重要性を主張し、戦争の初期段階で敵都市の地上施設へ空襲を行うことによって民間人に恐怖が伝播し、戦争が本格化する前に人々は戦争を終わらせようとすると考えた。また、ドゥーエは「制空権」概念や、それまで陸海軍の航空部隊として分かれていたものを独立空軍という形で統合かつ分離させることも主張した。

 

ルーデンドルフ『総力戦』

リデル・ハート『戦略論:間接的アプローチ』

ドゥーエ『制空』

 

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