軍事思想史入門 第12回【共産主義・ソ連の軍事思想】

共産主義ソ連の軍事思想】

 この時期におけるソ連でも独自の軍事思想が発達していったが、その中には共産主義的思想の影響を受けたものもあることから、その部分も含めて把握しておく必要がある。

 マルクスと並ぶ共産主義思想家であるドイツのエンゲルスは、『蜂起』などの著作などで革命時の武装蜂起や市街戦における軍事問題を取り扱った。エンゲルスは早くから暴力革命における軍事的要素の重要性を認知し、軍事研究に没頭していたことはあまり知られていない。ともあれ、エンゲルスロシア革命ソ連の登場を見ることのないまま生涯を終えることになった。

 ロシア革命後の赤軍労農赤軍、後のソ連軍)を指導することになったソ連トロツキーは、『軍隊建設における我々の政策』などでロシア内戦期における共産主義の理想と軍事問題の現実との間で揺れ動く赤軍の在り方を模索した。しかしながら、内戦末期に共産主義的思想から民兵制を主張するなどして批判を受けるようになってきた。

 その主な論敵となったフルンゼは、『統一軍事ドクトリンと赤軍などで、ロシア内戦の経験から攻勢や機動を重視した統一軍事ドクトリンの作成を主張し、それに反対するトロツキーとの大論争を巻き起こした。最終的にトロツキーの政治的失脚によって実権を握ったフルンゼによって、ソ連の軍事政策の方向性が決定づけられることになり、またフルンゼは将来戦が機械的戦争になると予想し、ソ連の工業化や軍国主義化を推し進めることになった。

 また、スヴェーチンはその著作『戦略』の中で、「作戦術」概念を提唱し、従来までの「戦術」と「戦略」の二項対立的概念の中間に作戦術が存在することを主張した。この作戦術の考えは当時ではあまり大きな注目を集めなかったが、現在ではアメリカや日本などでも注目されるようになった。

 さらに、イセルソン『作戦術の進化』の中で、歴史的な流れの中での作戦術の変化を分析しつつ、将来戦におけるソ連の作戦術についての研究を行った。

 それ以外に、ソ連において重要な著作となったのは、政軍関係について述べたシャポシニコフ『軍の頭脳』や、以前の回で述べたように縦深作戦理論に影響を与えたトリアンダフィーロフの『現代軍の作戦の性質』や、トゥハチェフスキーの『国境作戦の性質』などが挙げられる。

 

エンゲルス『蜂起』

トロツキー『軍隊建設における我々の政策』

フルンゼ『統一軍事ドクトリンと赤軍

スヴェーチン『戦略』

イセルソン『作戦術の進化』

シャポシニコフ『軍の頭脳』

 

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