軍事思想史入門 第1回【古代】

【概説】

 ここでは軍事思想の歴史について、特に代表的な人物とその著作、そしてその背景について簡単に説明していく。

(※著作については書籍、論文を問わず『二重鉤括弧』を使って表記する)

 

【古代】

 まず初めに、古代における軍事思想の古典を東洋と西洋からそれぞれ一つ挙げるとすれば、東洋からは中国の孫子孫武『兵法』が、西洋からはローマのウェゲティウス『軍事論』がそれに該当するだろう。

 孫子『兵法』は紀元前の作品でありながら、古代のみならず現代に至るまでその内容が通用するとされる屈指の名著である。たとえ軍事にさほど詳しくない人であっても「敵を知り己を知れば百戦あやうからず」という言葉には見覚えがあることだろう。中国ではこの孫子の『兵法』に六冊の兵法書(『呉子』『尉繚子』『六韜』『三略』『司馬法』『李衛公問対』)を加えた武経七書と呼ばれるものが重んじられてきた。しかしながら、時代や地域を越えて普遍的に読み解かれるだけの価値があったのは孫子の『兵法』だけだと言っても過言ではない。残念ながら東洋、特にアジア地域で書かれた書物はその時代、その地域でしか通用しない作品が多く、近代になるまで世界的に通用するものは登場しなかった。

 さて、ここで視線を西洋に移そう。

 古代ギリシャ・ローマにおいてもまた多くの軍事書籍が執筆されており、現代でもそういった作品のいくつかを日本語で読むことが可能である。その中でも特に代表的なものがウェゲティウス『軍事論』である。この本はそれ以前に執筆された数々の軍事書籍の内容をまとめたものであり、軍事的混乱の渦中にあったローマ帝国(西ローマ)の窮状を救う為に当時のローマ皇帝に提出されたものである。特にその第三巻冒頭にある「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」の一文は長らく西洋における代表的な軍事的格言として人々に知られていた。しかしながら、ウェゲティウスの願いも虚しく次第に西ローマは衰亡の道を辿り時代は中世へと移っていくことになる。

 

孫武)『兵法』

ウェゲティウス『軍事論』

 

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