おすすめの有名戦争文学10選【初心者向け】

 戦争文学の中には非常に人気が出た作品の中にも、史実とは異なった内容が書かれたものも存在する。もちろん楽しみ方は人それぞれだが、読む際に注意を必要とする場合も多い。そういう作品も含めた上で戦争文学のさらなる有名作をここで紹介。

 

司馬遼太郎坂の上の雲

 明治時代の日本を舞台に、秋山好古秋山真之正岡子規の三人を主人公として、日露戦争の勝利までを描いた歴史小説であり、テレビドラマ化もされた有名作。ただし、作中の旅順攻囲戦で司令官を務めた乃木や参謀長の伊地知に対する無能論など、研究者から批判されるポイントも見受けられる点に注意が必要である。

 

吉村昭ポーツマスの旗』

 アメリカのポーツマスで行われた日露戦争の講和会議を主軸に、日露戦争の華々しい勝利の裏にあった、ロシア全権ウィッテとの熾烈な外交上での戦いを完遂した当時の外務大臣である小村寿太郎の活躍を描いた作品。こちらもテレビドラマ化がされており、その人気ぶりがうかがえる。

 

坂井三郎大空のサムライ

 太平洋戦争のエースパイロットであった坂井三郎の自伝的戦記作品。当時の空気感や空戦上のテクニックなど、リアル感あふれる描写から人気を博したことで有名である。ただし、内容には誇張表現や歪曲が含まれているという批判などもある。

 

井伏鱒二『黒い雨』

 太平洋戦争における広島への原爆投下の後に降った放射性物質を含む黒い雨を題材にした作品。被爆の後遺症に苦しみながらも姪の縁談をまとめようとする主人公の重松だったが、姪が被爆していないことを証明しようとするものの、実際には彼女は黒い雨を浴びており原爆症を発症してしまう。生き残った被爆者に降り注いだ苦難を描いた名作の一つ。

 

猪瀬 直樹『昭和16年夏の敗戦』

 日米開戦前夜の昭和16年の夏、「総力戦研究所」という若きエリートたちが集められた研究機関が導き出した結論は日本必敗という予測だった。しかし、史実ではこの予測は闇に葬られ日本はアメリカとの戦争を選び、そして敗北という運命に至った。開戦に至るまでのプロセスを描きながら日本的組織の構造的欠陥を研究した名作。

 

戸部良一、他『失敗の本質』

 ノモンハン事件から始まり、ミッドウェー、ガダルカナルインパール、レイテ、沖縄などの戦いを分析しながら、旧日本軍、ひいては日本的組織の構造的欠陥と失敗の本質となる要素、そして失敗の教訓などを導き出した日本の組織論研究の古典的作品。

 

スレッジ『ペリリュー・沖縄戦記』

 太平洋戦争におけるペリリューや沖縄での戦いを舞台に、アメリ海兵隊員であった作者の体験を元にした戦記作品。過酷な戦場の恐怖の中で、誰もが次第に人間性を失い悪意に捕らわれていく最前線の過酷な現実を描き出した。テレビドラマ、『ザ・パシフィック』の原案の一つとなった有名作。

 

マクリーン『女王陛下のユリシーズ号

 第二次世界大戦時、イギリス海軍所属の巡洋艦ユリシーズソ連への援助物資を載せた輸送船団の護衛任務に就くことになり、ドイツ軍が待ち受ける極寒の北極海に向かって進んでいく。海洋冒険小説を代表する傑作の一つ。当時のイギリスの君主はジョージ6世なので、タイトルを正しく訳せば「国王陛下のユリシーズ号」となるのはご愛敬。

 

アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』

 第二次世界大戦独ソ戦の中で、ソ連軍に従軍した女性たちへの聞き取りを元に執筆されたノンフィクション作品。後方だけでなく最前線で武器を取った女性たちの戦いだけでなく、女性ならではの苦悩や社会から向けられた偏見などをも描いた作品。また、漫画化されたことでも有名である。

 

匿名『ベルリン終戦日記―ある女性の記録』

 第二次世界大戦のベルリンの戦い前後を舞台に、ソ連軍のベルリン侵攻によってソ連兵から凌辱を受けながら、ソ連将校の愛人となることでその過酷な状況の中を生き抜いた、匿名のあるドイツ人女性ジャーナリストの日記を元にした文学作品。前記の『戦争は女の顔をしていない』と合わせて読みたい作品。

 

 以上、おすすめの有名戦争文学10選でした。